蔵珍の紅柄(あか)

時を重ね育てる赤

蔵珍窯は 赤 を大切に育てています。
原料となる紅柄を1000日という時をかけて赤絵の具に育てます。そして、器に華をそえた 赤 は、お客様の手により時を重ね、味わい深い色に育っていきます。また、当窯で使用している原料の紅柄は、現在生産されていないため市場に出回っておりません。そのため大変に希少価値が高く、まぼろしの紅柄となっています。

呉須赤絵 碗

朱貫入 碗

千日すりの赤(赤絵ノ具)誕生の物語

唐九郎との出会い

時さかのぼり三十年の昔、ある居酒屋で唐九郎と出会った。

嬉しいことでもあったのか上機嫌で、自分の書いた「やきもの随筆」を一冊ひょいと取り上げ、名を入れて私に手渡してくれた。項をめくると中程に赤絵ノ具の作り方がていねいに書いてあった。
早速作ってみることにした。

ひと抱えもある乳鉢に、原料である酸化第二鉄(紅柄)を入れ、天井から釣り下げた陶棒でお茶を注ぎながら八十歳の祖母が毎日毎日ひたすら摺り続けた。

そして三年(約1000日)、

出来たての絵ノ具を筆に付け、赤絵を描いてみる。

「美しい」

これがあの夜、唐九郎の言っていた本物の赤絵だったのか・・・・・。

蔵珍窯の赤絵ノ具の誕生であった。

これも今は亡き唐九郎と祖母のお陰だと思い出す今日この頃である。

小泉 蔵珍

紅柄(赤絵ノ具)のこと

発見! 幻の「紅葉印」紅柄

昭和初期、岡山県の片山家で作られていた紅葉印の紅柄(酸化第二鉄)は、天然の鉱石(硫化鉄鉱)を焼き、水簸(すいひ)してそのうわ水を濃縮、冷却結晶させローハをつくります。
その後、さらにローハを焼成し、水簸(すいひ)後、上澄みにあるほんのわずかな粒子の細かい部分が良質の紅柄になります。
この紅柄はその当時も質の高さが評判で大変貴重なものとされていましたが、片山製の紅柄は時代の流れのなかでなくなり、紅葉印の紅柄は「幻の紅柄」となりました。

しかし、 平成十五年五月

旧家取り壊しの際、土蔵からその片山製の紅葉印紅柄が大量に発見され、縁あって私共に入手することが出来ました。
蔵珍窯は、この最高の赤を「千日摺りの赤」として 後世に伝えていきます。

呉須赤絵のこと

中国磁器のひとつに呉須赤絵と呼ばれるものがあります。明(みん)朝末期の特色ある五彩磁器。呉須赤絵は日本での呼称で、汕頭(スワトウ)の港から出荷されたことから西欧ではSwatow ware(汕頭(スワトウ)磁器)といわれています。呉須赤絵の「赤絵」というのは、赤い色だけを使って描いた陶磁器ではなく、一般的には赤・青・黄色・緑・紫などの色釉(いろぐすり)を用いて「上絵(うわえ)」でデザインされた陶磁器を意味します。名前だけではイメージが湧いてこない人も、実物を見れば、「ああ、これか」というくらいに見慣れたうつわだ思います。呉須赤絵の装飾デザインは特色のある様式です。主に菊などの花柄や唐草文様によって構成されており、川辺や小船に関するものも呉須赤絵のデザインに好まれて使われております。

日本では、17世紀ごろ中国から輸入されたといわれております。呉須赤絵は昔から高く評価されており、たくさんの陶工が影響を受け、特に京都・犬山・九谷などの窯元で制作されています。